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仙台高等裁判所 昭和26年(ラ)12号 決定

仮差押の方法である執行吏の占有は公法上の観念であり、私法上の占有観念とは異るものである。即ち法は執行吏の事実的支配とか封印標識の施用行為を以つて差押という法律効果を生ぜしめんとし、かかる行為を法は一応「占有」と称したものである。もとより民法上の占有観念とは異るものである。故にたとえば執行吏が有価証券、貴金属等の差押をし、これが占有を取得した以上その後これらの物件につきその意に反して事実的支配を失うも差押の効力を妨げるものでなく(即ち民事訴訟法第五百六十六条第一項の占有を失つたことにはならない)、また封印、標識等についてもこれ等が無権限に損壊され、または自然に脱落消滅しても、差押の効力を害さない。また差押中といえども債務者のために取得時効の完成を妨げるものではないのである。而して民事訴訟法第五百六十六条にいう「保管」の意味も亦公法上の観念であり、「単なる執行吏の占有機関となること」の意に解すべきである。私法上の保管とは物を自己の勢力範囲内に把持して滅失毀損を防ぐ行為であり、その概念中に使用の観念は含まれないが、民事訴訟法第五百六十六条にいう保管は前述のように公法上の観念であること、同条にいう占有と同一である。従つて民事訴訟法第五百六十六条の「保管に任すべし」を根拠として使用権を否定することはできないのである。而して仮差押の目的物の使用を許すべきかどうかのような重大問題は実に仮差押の性質、目的を勘案してこれを決しなければならない。超過差押の禁止(民事訴訟法第五百六十四条第二項)無益差押の禁止(同条第五項)、差押禁止物の設定(同法第五百七十条)等は法が債権者の利益を擁護せんがために設けた規定であり、また執行吏が差押をなすには債権者の指示に拘束せられることなく債権者に苦痛の最も少いものを差押えよというのが法の精神である。かかる趣旨が仮差押の執行の場合にのみ拒否せられる何等の理由も存しない。仮差押は将来の強制執行の保全を目的とし、直ちに債権者の満足を図るものでないから、その執行は差押の目的物に対する債務者の処分権の制限を以つて満足すべきであり、その使用収益の権限は処分権の制限の目的を達するに必要な範囲内に止むべきこと理の当然である。

本件のように仮差押の目的物が運搬をなすにつき重大な困難があり債務者の保管に附せられ、仮差押の目的物の使用を許容しても仮差押の公示方法を施用するに何等の妨げなく(即ち仮差押の目的物の処分権制限の目的を達するにつき使用権限の制限を必要としない場合である)、且債務者の営業継続に不可欠な生産手段である場合においては、これが使用を禁止するがごときは、仮差押の執行限度を超えた違法あるものといわねばならない。なお原決定は仮差押の場合において、仮差押の目的物に対し債務者は常に必ず使用の権限を奪われるもの、というのか或は執行吏はこれが使用を許容し得る、というのか不明であるが、抗告人は本件の場合のような執行においては、これが使用を許さねばならないと考える次第であるから、相手方が福島地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第十九号有体動産仮差押決定正本に基いて昭和二十六年三月二十四日に仮差押をした抗告人所有の仮差押物件に対し、更に同年四月九日執行吏緒方新次郎に委任してした使用禁止処分の不許を求めるというにあり。

よつて按ずるに、有体動産の差押は執行吏その物を占有してこれをなし、債権者の承諾あるとき、又はその運搬を為すにつき重大な困難あるときは、これを債務者の保管に任すことができること、民事訴訟法第五百六十六条の規定するところである。従つて執行吏が債権者の承諾を得、またはその運搬に重大な困難あるものと認め、これを債務者の保管に任せた場合においても、その占有は執行吏にあるこというまでもない。而してその占有なる意味は、差押は強制執行の目的である物件の競売、換価をなすための強制執行上の一手続であるから、民法にいう占有なる語の用例とは異なり、債権者、債務者その他の者の力を排除して事実上その物を支配することであつて、自己のためにする意思を以つてする所持を必要とするものでないと解すべきである。されば動産の差押は差押の当然の結果として債権者、債務者、その他の者も使用収益をなし得ないものと解する。而して有体動産に対する仮差押の執行は、民事訴訟法第七百四十八条、第七百五十条第一項により各差押と同一の原則に従うべきものであるから、仮差押の執行について、右と別意に解する理由はない。本件において昭和二十六年三月二十四日の差押の結果、抗告人は本来その差押物件を使用し得ないわけであるが、相手方が更に執行吏緒方新次郎に委任して同年四月九日右差押物件の使用禁止の処分をしたことは、これを明確にする意味において敢て違法とはいえない。

よつて原決定は結局正当で、本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)

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